がくしだったりマイクロだったりすぎもとだったりするひとのメモとか。

ハンス・ロスリング『ファクトフルネス』(日経BP社)

話題の本ですが、最近の読書傾向から面白そうだったので読んでみました。

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

  • 作者: ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナ・ロスリング・ロンランド,上杉周作,関美和
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2019/01/11
  • メディア: 単行本
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TEDなどで有名な教育者(医師の顔も持つ)である著者が、妻・息子と共に作り上げた集大成です。

この本は

  • いま世界がどうなっているのか(知識)
  • バイアスを踏まえた上で世界をどう見るのか(技術)

の両方を啓蒙してくれる本という位置づけかなと思います。とても面白かった。

冒頭に世界に関しての質問がいくつかあります。たとえばこんな質問。「低所得国に暮らす女子のうち、初等教育を修了する人の割合は?」「いくらかでも電気を使える人は世界にどれくらい居るでしょう?」三択で、これが10つほど提示されます。この質問は作者のロスリングがさまざまな場所で講演を行ったときに同じように観客に投げかけられたものです。正解率はかなり低かったといいます。たとえチンパンジーに選ばせたとしたら、ランダムで選ぶとして約33%になりますが、これより正解率が低い質問ばかり。これを作者はチンパンジーテストと読んでいます。

ぼくたちは世界を悲観的に見過ぎています。ほとんどの問題で、答えは「いちばん悲観的でないもの」です。なんでこんなイメージがしみついているのか。良いニュースは伝えにくいが、悪いニュースは伝えやすいから? 過去の数字のイメージをずっと引きずっているから? 作者は事実を教えてくれるだけでは無く、人の脳が陥りがちな「クセ」を、「○○本能」という独自の名前で説明します。なるほど、確かにわれわれの脳にはそう言ったクセがありそうです。

最近、いろいろな本を読んでいたせいか、これは「バイアス」と同じことを言ってると思われます。バイアスであれば、すでに心理学の世界で知られた学術用語があるはずなので、「○○本能」ではなくそのバイアスの名前で説明して欲しかったかなとも思いましたが、10個の思い込みを分類するには、バイアスは既存の学術用語過ぎてかえって使いにくかったのかも知れません。

読まずに誤解している人が居るのでここで取り上げておきたいのは、たしかに本書は「世界は思ったほど悪くない」ということを教えてくれます。ぼくも誤解していることがたくさんありました。しかし、いっぽうで本書で釘を刺していますが、悪いものが全てなくなったわけではありません。思ったよりも少ないかも知れないが、悪いこともある。それはそれとして対処をしなければならなりません。ただ対処には正しい知識が前提ないことには対策の効率が悪いんじゃ無いの、ということでしょう。決して今なおある悪いことから目を背けるための「世界は良くなっている」ではない、ということです。

また、ネットで見つけた発言の中には、本書を間違えやすいクイズみたいに扱って、誤解している人に対して知識で優位に立つ道具として使ってるんじゃないかと思うようなものも目に付きました。これもまた本書をちゃんと読めてないと思います。これはただのクイズの本じゃありません。世界をもっとよくするための道具として事実を知ろう、ということです。だから、最初に「知識と技術」について書いてある本だと思ったと書きました。人間の陥る思考のクセがあってそういう誤解を招きがちなんだよ、という部分とセットで意味があるのであって、他人に対してマウントを取る道具じゃ無いと言うことは指摘しておきたいところです。

まあ、読み手に高尚な思想があろうと無かろうと、具体例とそれの原因となった本能をうまく表現していて、大変面白い読み物だということは言えます。ぼくは知識なく読んだせいか、最後の「おわりに」にはびっくりさせられましたし、そこに書かれていることによって更に説得力が増すような気もしたものです。しゃべりのプロの書いた本のせいか大変読みやすいですし、話題の本となるとかえって敬遠してしまうぼくのような人間でも面白く読めましたので機会があれば是非。