黒かわず句会でした。
兼題がやや多め、8句でした。
- なんらかの色、色彩を感じるものを詠み込む
- 字あけのある句を作る
- 「いかがなものか?」と思う事柄を詠む
- 「無」という漢字、あるいは、無を一部に含む漢字(例えば「撫」)を使った句
- 秘書(「秘書」という言葉を使ってください)
- 季語「蓮(蓮の花)」
- 季語「ヨット」
- 季語「氷菓」
ぼくの選んだ特選はこちら
演説の無線をひらふ海の家 独楽
物議を醸すお題と物議を醸す句を投下してくる独楽さんですが、ストレートに素晴らしい句でした。
まず、これ、とっても景がキレイだと思うのです。海の家にラジオかなんかがかかってるんですが、そこに混戦した異国の演説みたいなのが紛れ込んでしまう情景。ぼくは北朝鮮とかの電波を拾ってしまった日本海側の海水浴場を想像しました。海水浴場の光景というのはとっても平和でのんびりしていますが、そこにざらついたノイズが紛れています。なんと言っているか分からないけれど、それが演説のようにも聞こえる(本当に演説かどうか分からない。異国のことば)。平和に紛れ込む、わずかばかりの不穏。よくよく考えてみれば、その重低音に響く不穏というのは、夏の光景そのものともも言えます。
さて、続いて、ちょっと議論が割れた作品、ぼくはとれなかったのが次のこの句、
並べた西瓜のてっぺんだけ齧る
これ、切られた西瓜の甘いところだけ食べちゃった、という光景で、お題【「いかがなものか?」と思う事柄を詠む】句なんですよね。それはいいんですが、読み下したときの混乱が僕には気になりました。
「並べた西瓜」という文字列から、僕は西瓜そのものが玉で並べられている光景を浮かべてしまいました。それをかじる、といわれてもどうかじるんだ?ってなった。で、考えなおして、これは切られた西瓜なんだなとつじつまを合わせた。「並べた西瓜」というものが受け取るイメージは両方ありうると思うんです。ぼくにとって「西瓜」という季語は、あの重量感のある玉そのものでしたが、もちろん切られた西瓜のほうを一般的に思い浮かべてもそれはおかしくない。ただ前者もやっぱりありうると思うのです。そういう意味で、浮かべた光景をいったん取り下げなきゃいけないような状態で句を読んでしまうとどうしてももたついてしまうかなと。それでちょっとこの句には票を入れられなかった、ということであります。まあ、こういうのは受け手のイメージに大きく依存しますから仕方ないことです。
以下自句をあげときます。
クレーン車ついに倒れてソーダ水
どうということもない句です。すいません。
でもソーダ水ごしにクレーン車倒れる感じは句にしても良いなと思ったんだ。
あごまで水が迫つてゐる 蠅
字あけの句が好きだったので字あけのお題を出しました。けっこう気にいってます。
七日目にクビになる女医土用波
挨拶句なんですが、実話なんですよ。しかも院長待遇だったのに、クビなんだって。「いかがなものか」感すごくないですかね。
前半の挨拶句感がすごくて、季語が取って付けた感じに見えるのは難点か。「土用波」はもちろんぼくにとっては中島みゆきの曲で馴染みのあることばなんですが、土用波って沖合で荒らしがあったりして、そのうねりが迫ってくる感じの、この時期特有の荒波を言うそうです。「クビになる」との取り合わせとしては「なんか適当に付けただろう」というわけではないというのがわかってもらえたでしょうか。わからんか。
雲の峰無縁墓地より立ちあがる
墓地とか大好きですからね。夏の墓地ってなんか立ち上ってくる感じないですか。いちおう正当な句も作れるアピールをしつつ、墓地をぶっこむスタイルで。
秘書だけが足を崩して夏座敷
じぶんの句はともかく、秘書は良い句が多かった。
紅蓮の茎をさしこむコンセント
蓮とか植物はちょっと作りづらいです。蓮はちょっと気持ち悪いのでおもっきり無機質なとりあわせをしてみた。
はらわたを抜き出す時刻ヨツト過ぐ
はらわたとかがさらっと出てくるのは黒かわず流。さらっとしてないか。
悪人を裁ききれぬ日氷菓食ふ
夏の裁判官って暑そうだよなーとどうでも良いことを思った。べつに裁判官じゃなくても暑いはずなのに、なぜか裁判官のことを思ったのです。そしてきっと裁判所はクーラー効いてるからさほど暑くないだろうというのも分かってるんだ!