がくしだったりマイクロだったりすぎもとだったりするひとのメモとか。

花田菜々子「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(河出書房新社)

ぼくのばあい、過去にミステリ読みや怪談関係の方々と交流していたこともあり、知人友人が書籍を出す、ということはけっこうあったのですが、知り合いの本であろうとブログの読者には関係ないですし、そもそも作品は誰のものでもない(あえていうなら読者だ)みたいな思いもありまして、あまりそういうことを気にせず感想を書くことが多いのですが、今回ばかりはちょっとそういうスタンスが難しい。本書は、多分にフィクショナルな要素はありながら、自伝エッセイというジャンルであって、作者本人を知っているかどうかというので本のイメージは結構変わってしまうんですよね。そういう予断があって本書を読んだ、ということは感想には書いておいたほうが、いまから書くぼくの文章だけを読んだ人にとっては参考にもなるだろうと考えました。と、いいつつも、いまから僕はこの本の感想を下記ながら結局は、じぶんのことを書いてしまうんじゃないかと思っているので、別に作者と知り合いとかどうでもいい情報だったのかも、などと思い始めています。

それはさておき、本書を単に紹介するのであれば、ある女性が出会い系サイトでその人に合う本を進めまくる行為をしながら、自分の人生を好転させていく様子を描いたエッセイのような、小説のようなおはなし。本という装置が人の感情をプラスにもマイナスにも揺さぶることがよくわかります。作者は本によって生かされていることもよくわかります。本への愛が彼女にとっての人生そのものであって、つらい日常から浮かび上がることができたのはこれまでに彼女が身の内に蓄積させてきた書物そのものなのです。

ちなみに出会い系サイトとあるものの、いまもなおあるそのサイトは、出会い系という言葉から推測されるようないかがわしさとは少し違っていて、本書を読めばわかることではありますが、タイトルだけ見るとちょっと盛ってます。とはいっても、ここに書かれている最初の二人が、そういう目的で彼女を見ていたところからすると、そういう側面もないとは言えないんでしょうね。いずれにせよ、本書にうすくひろがるどこかジャンクな感じ、それはもしかしたら彼女がヴィレッジヴァンガードにいたからもしれませんが、それをよく表している素敵なタイトルだと思います。

ところで、ぼくが彼女と出会ったのは、本書にあるコワーキングスペースTで、彼女の世界が広がったきっかけとなった場所にも、背景として存在しておりました。彼女がそこに書いていた「へそまがり」といういまはもうない、一軒家カフェでもいろいろお世話になりまして、それもふくめて、これまでの交わった人生の裏側の感情が見えてしまって、なんだか見ていいのかよくないのかみたいな気持ちにもなります。いまも彼女はぼくの主催するイベントによく顔を出してくれていることを思えば、なんらかの助走くらいにはなったんじゃないかなぁとは思っています。もちろん彼女が身の内にためてきた多くの本に比べれば、人間が関与できることなど、微々たるものでしょう。本はヒトによって書かれていると思ったら大間違いです。書籍というものは書き手の手を離れた瞬間から読み手のものです。本書を読んでもそれを強く感じます。

そう、本について書いた本というのはいつだって魅力的です。最近ほとんど本を読まなくなってしまったぼくですが、一時は生活の大部分を読書が占めていた時代もあり、それなりに蓄積はあったと思っていましたが、彼女の薦めていた本のリストを見渡してみたところ、なんとひとつも読んだことがありません。これは由々しき事態です。もっとも、ぼくなどいまは本なしで平気な顔をして電車ではソシャゲとかやってる時点で本読みとはもはや言い難く、あれはいったい何だったのかなんてことを思わずにはいられません。いや、まあ、そんなことはどうでもいい話です。

それよりも、どうしても書いておきたかったことがありまして、本を愛する者が本について語るうちにその人そのものを語っていることになってしまう、ということについていえば、ぼくはもちろん二階堂奥歯のことを忘れるわけにはいきません。本書を読んだ前日はちょうど二階堂奥歯の命日でした。二階堂奥歯もまた、読んできた書物たちが彼女の血肉になっていることがはっきりわかる女性でした。二階堂奥歯の日記が出版されたときに、計らずとも寄せた多分に感傷的な文章にも書いた気がしますが、ほんとうにぼくは彼女の図書館の貸し出しカードを作ったばかりで立ちすくんでいただけなのです。

花田さんの嗜好と二階堂奥歯の嗜好は、同じ本を愛し愛された人間でもかなりちがっていて、似たところを無理に探すことも不毛ですし、双方に失礼かと思います。しかしながら、ぼくの遠く及ばぬ高さにいて、ぼくなどが遠く及ばぬ愛を語ってくれることが、ぼくのようなただこれまで漫然と読書を繰り返して来て、あまつさえ、それをやめてしまった人間にってとってさえ、人生としての意味を感じさせてくれるというのは、ほんとうにすごいことではないでしょうか

本をよみおえて興奮した気持ちでとりとめのない気持ちになるというのはよい本を読まないと味わえないことですが、久しぶりにそういう気持ちにさせられた本でした。このブログの文章だけでいえば、ぼくという誰かもよくわからない人物の思いが過剰に書かれすぎてて、レビューにもなにもなっていない気がしてなりませんが、とにかく、この「出会い系サイト~」は本について書かれた本として、たいそう魅力的であることだけは受け取ってもらえればいいかなと思ったりします(なんだか強引に話をまとめてきたぞー)

八本脚の蝶

八本脚の蝶