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羊飼いはウサギの頭には寛容ではない

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ある日、羊飼いはふと思い立って、街まで下りて行く。友人が新しくばねの店を始めたと聞いたからである。久しくばねを買っていない。羊飼いの仕事にはばねはいらないし、最近、家にあるばねはほこりをかぶっていて、弾ませてみたりすることもなくなっていた。もうばねをうまく使いこなせない、そんな風に思うこともあった。

雨が上がって、夕方の生ぬるい風が流れあぐねて右往左往している。しばらく見ないうちに、街には大きなドーム型の建物が立っていて、たくさんの人が出入りしていた。似たようなドームを羊飼いは別の街で見たことがあった。中には砕けたシャンデリアがたくさん設置されていて、ひとびとはガラスの破片でけがをすることを楽しんでいた。こちらのドームは一体どんなものがなかにあるんだろうか。

はじめ友人の店がそのドームの中にあるのだと思っていたが、どうやらちがうようだった。そのドーム型の奇妙な建物の目と鼻の先に、ねじが飛び出した空間があって、そこに店があった。あたりまえだが、たくさんのばねが並んでいて羊飼いはその量に圧倒された。圧倒されてから、ばねの専門店ならこれくらいは当たり前だと気が付いて、そこまでばねのことを忘れてしまっていたことを恥じた。そんなことを考えていたものだから、羊飼いはむやみにばねの間を行ったり来たりしてしまい、それに気づいてさらに恥ずかしい気持ちになった。

とくに連絡もせずに行ったので友人は席を外していたし、ばねの店はすぐに閉店時間になってしまった。どこからか兵士がやってきて、店から飛び出したばねにウサギの頭を差し始めたので慌てて羊飼いは店を後にした。羊飼いはウサギの頭には寛容ではないのである。

ドーム状の建物が低い音で泣いている。羊飼いは行く当てもなく、その中に吸い込まれるように入っていった。壁にいくつも筋状の模様が刻まれているが、物は何もない。人々はでたらめに歩いている。筋を見ているとあたまがくらくらしてくる。友人の店で先ほど見たさまざまなばねのことが自然と思いだされ、ふいに羊飼いは悲しみに襲われた。いったい何が悲しいのかもよくわからない。

気が付くと、ドームの外にいる。遠くから戦争の音が聞こえてくる。この街に長くは居られない。羊飼いは、あわてて山に戻ると、硬い布団に潜り込んで眠った。