がくしだったりマイクロだったりすぎもとだったりするひとのメモとか。

黒かわず句会

黒かわず句会でした。

ものすごく忙しくて、投句も自分が管理していることをいいことに直前まで伸ばしてやっとねじ込む始末。

岸本葉子『俳句で夜遊び、はじめました』に出てきた句会でのお題を借りて、漢字でも何でもいいので「めね」の連続2音を入れるというお題がありまして、これがなかなかいい句がそろっていました。

ぼくは

糸遊の空に猫鮫鼠鮫   幽樂坊

というのを出しましたが、猫鮫鼠鮫はよかったけれど、糸遊の空はどうか? という指摘を受けました(「糸遊」は「陽炎(かげろう)」の傍題で意味は同じく、陽炎のことです)。糸という文字を入れたのは鮫のたまごからの連続性で、たぶんこれくらいの距離が離れていればつくことはないと思うので、糸遊それ自体は個人的にはまあこれでいい気がしていて、空を動かしたいところ。

春蝉のわたしのからだうごかない   幽樂坊

という句は「異性に生まれ変わったら感じてみたい事柄を詠む(性的ネタ不可)」という謎のお題をこなそうとしてだしたものです。いろいろ考えるうちにもう人間から離れるしかなくて、雌の春ゼミになって鳴けない身体を感じてみることにしたんですが、さすがに遠すぎてだれにも理解されませんでした。おかしいな!

ぼくにとって「「異性に生まれ変わったら感じてみたい事柄」というのが「性的ネタ」を回避できると思えなかった。実際、ほかの句を見ても「それは結局性的では」って思う句ばかりだったんですよね。

前回も「妹」に付与された、ある種の男性オタク的オブセッションをどう解釈するかという話が出たと思うのですが、今回の句会では「兄嫁」がおなじようなターゲットに。一定の趣味を持つクラスタにとって意味を持つ単語は、そのクラスタ内での季語みたいな存在だと思うのですが、それがどこまで外に向かって拡張されうるのかという問題はあるなと思います(個人的な趣向で言えばどっちの要素に何の感慨もないのですが、それとは別にジャンル内の記号としての知識はあるわけで、無味無臭の要素としてスルーすることはできない)。このへん、けっこう考えると深い話じゃないかなこれは。

まあ、それはいいのです。今回はちょっとした趣向がありました。

黒かわず句会には菊八っつぁんという名プレイヤーがおりまして、かなりぶっとんだ句を毎回入れてくれる。そこで今回、彼女に敬意を表しまして、「菊八になりきって句を作る」というお題を出しました。自分が書いたのはこちら

春驟雨呼び止めて叛意の夜   幽樂坊

ポイントは「字足らず」と「省略しすぎて意味がわからない」と「強い言葉が複数ある」など。盛り込めませんでしたが、「同じ季語をひとつの句会で二つの句に使っちゃう」とか「(おそらく改稿を繰り返すうちに)お題から離れる」「文法が破綻する」などもあります。

しかし、本人が今回出して来たのインパクトに比べるともうこんなものはごみくずみたいなもんでした。

痴呆(ぼけ)ゆきて昨日今日明日花曇   菊八

これはお題「病名」で出されたもの。まず「ぼけ」が病名かどうか怪しい。「痴呆症」とかならわかるけど、「ぼけ」ですから。 そして「ぼけゆきて」という謎の言葉の並びがすごい。「ぼけていく」とかじゃなくて「ぼけゆきて」ですよ。「ゆきゆきて、神軍」みたいなすごみがある。後半もよくわからない。

実は別のメンバーが出した菊八模倣句に

色即是空空即是色飛花落花   碍子

というのがあって、菊八さん本人もこれが自分の句っぽい! って選んでるんですが、この模倣句は、きれいすぎるんです。壊れたところがない。かなり本人の句を意識できてると思うのだけど、あくまでも模倣として頑張ってる感じが強いんです。これ、菊八本人の句なら、全部漢字で行こうとしてやっぱり変えていくうちに平仮名が入ってくるはず、などと盛り上がっていたところ、先の「ぼけゆきて」も元々は、

痴呆症昨日今日明日花曇

だったという情報が。最初に指摘していた「痴呆症」もあるじゃないか。だんだん壊れていくのが菊八流ですよ。もう完璧じゃないですか。

もうひとつ菊八句を

「ダメダメね」容赦ない口が草餅を

これ、逆選が二つ入りましたが、謎の魔力があるんです。「めね」読み込みの句ではありますが、上五でお題をすでにこなしちゃってるのに、中七下五がいっこうにひいてない。まず「容赦ない口」でもなんでもないところからスタートして、草餅くっとけ、みたいな雑な投げ方で終わる。せっかく上五でお題をこなしたのに、下でもなんか変なことをしようとしている。最初はツッコミを入れていた参加者も「じゃあどこが動くのか? 全部が動くのでは」みたいになってきて、「これはこれでいいんじゃないかと思えてきた」となる始末。

謎の魔力があるんです。

面白い句会でした。